
五十肩に「痛くても動かしましょう」と指導しているなら、その一言が拘縮を長引かせているかもしれない
「肩は動かさないと固まりますから、痛くても動かしましょう」
肩関節周囲炎、いわゆる五十肩の患者さんに対して、こう指導した経験はないでしょうか。動かさなければ拘縮が進む、という理屈は自然に思えます。
ただ、凍結肩(frozen shoulder / adhesive capsulitis)に関しては、この指導が病期によっては逆効果になることが、複数の研究で指摘されています。
凍結肩は「炎症の時期」と「拘縮の時期」で別物
凍結肩の臨床像は、古典的に3つの病期で整理されます(1)(6)。
- Freezing(疼痛期) 炎症が主体。安静時痛・夜間痛が強く、可動域は痛みによって制限される。数週間〜数か月続く
- Frozen(拘縮期) 痛みは軽減してくるが、関節包の線維化により可動域制限が前面に出る。他動でも制限される
- Thawing(回復期) 徐々に可動域が回復していく時期
臨床判断として決定的に重要なのは、この3つで「やるべきこと」が正反対に近いという点です。
疼痛期に強い伸張を加えれば、炎症を煽って痛みを長引かせます。逆に拘縮期に何もしなければ、可動域は戻りません。同じ「五十肩」でも、時期を読み違えると介入が裏目に出るわけです。
「痛みを超えて動かす」ことの害
これを最も明快に示したのが、Diercks と Stevens の研究です(4)。
凍結肩の患者を、「痛みの範囲内でのみ動かす(supervised neglect)」群と、「痛みを超えて強く可動域訓練を行う(intensive physical therapy)」群に分けて2年間追跡したところ、前者のほうが良好な成績を示したと報告されました。
「動かさないと固まる」という直感とは逆の結果です。
この研究単独で結論を出すべきではありませんが、その後のガイドラインやレビューでも、疼痛期には痛みの管理と、痛みの範囲内での可動性維持を優先すべきという方向で整理されています(2)(3)(6)。
JOSPT の臨床実践ガイドラインでも、病期に応じた介入強度の調整が明確に位置づけられています(2)。
拘縮期には、しっかり伸ばす
一方で、痛みが落ち着いた拘縮期には、話が変わります。
この時期の制限は、炎症ではなく関節包の線維化・短縮に由来します。ここでは、関節可動域運動、関節モビライゼーション、持続的なストレッチといった介入が意味を持ちます(2)(3)。
臨床のポイントは、
- 他動での end feel を確認する。硬い抵抗感(capsular end feel)が主体なら拘縮期と考える
- 疼痛期のような夜間痛・安静時痛が消退しているかを必ず確認する
- 伸張後に翌日まで痛みが強く残る場合は、量が過剰というサイン
- 肩甲胸郭関節や胸椎の可動性も含めて、肩甲上腕関節以外の代償を見る
「自然に治る」は本当か
凍結肩は「放っておいても2年で治る」と説明されることがあります。
これについて Wong らのシステマティックレビューは、「必ず完全に回復する」というエビデンスは十分ではないと指摘しています(7)。実際には、数年後にも可動域制限や症状が残存する例が一定数報告されているというのが実情です。
したがって「時間が解決します」とだけ伝えるのは、正確ではありません。時間経過とともに改善する傾向はあるが、全員が完全に戻るわけではない、という伝え方が誠実です。
何をどこまでやるか、の選択
UK FROST 試験は、凍結肩に対する3つの治療戦略(早期の構造化された理学療法、麻酔下授動術、関節鏡下関節包解離)を比較した大規模RCTです(5)。
結果として、いずれの群も改善し、決定的に優れた単一の方法があるとは言えなかったという整理になっています。費用対効果の観点も含めた議論が行われました。
臨床的な含意はシンプルです。「これをやれば治る」という魔法の手技を探すより、病期を読み違えないことのほうが影響が大きいということです。
明日からの臨床で意識したいこと
- 初回で必ず夜間痛・安静時痛の有無を確認し、病期を推定する
- 疼痛期には、痛みの範囲内での可動性維持にとどめる。強い伸張は入れない
- 疼痛期に大事なのは、痛みの管理と、患者さんの不安への対応
- 拘縮期に移行したら、明確に強度を上げる。ここで遠慮すると可動域が戻らない
- 患者さんに「今はどの時期で、なぜこの強度なのか」を毎回説明する
- 「必ず自然に治ります」と断言しない(7)
結局、何が言いたいか
「肩は動かさないと固まるので、痛くても動かしましょう」
この指導は、拘縮期には正しく、疼痛期には有害になりうるという点で、片手落ちです。
凍結肩は炎症主体の疼痛期と線維化主体の拘縮期で病態が異なり(1)(6)、痛みを超えた強い可動域訓練は、痛みの範囲内での介入に劣る可能性が示されています(4)。ガイドラインでも病期に応じた介入強度の調整が推奨されており(2)(3)、また「自然に完全回復する」という前提も十分に支持されているわけではありません(7)。
だからこそ、凍結肩の患者さんに対しては、
- 病期の判別を、初回の最重要課題に置く
- 疼痛期は「守る」、拘縮期は「攻める」と明確に切り替える
- 患者さんに、今どの時期で、なぜこの強度なのかを説明する
- 「時間が解決する」で終わらせない
という組み立てが必要になります。
凍結肩で結果が分かれるのは、手技の巧拙ではなく、時期の読み違えであることが多い。そこを外さないだけで、経過は大きく変わります。
引用文献
(1) Neviaser AS, Neviaser RJ. 2011. Adhesive capsulitis of the shoulder. Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons. 19(9):536-542.
(2) Kelley MJ, Shaffer MA, Kuhn JE, Michener LA, Seitz AL, Uhl TL, et al. 2013. Shoulder pain and mobility deficits: adhesive capsulitis. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 43(5):A1-A31.
(3) Hanchard NCA, Goodchild L, Thompson J, O'Brien T, Davison D, Richardson C. 2012. Evidence-based clinical guidelines for the diagnosis, assessment and physiotherapy management of contracted (frozen) shoulder. Physiotherapy. 98(2):117-120.
(4) Diercks RL, Stevens M. 2004. Gentle thawing of the frozen shoulder: a prospective study of supervised neglect versus intensive physical therapy in seventy-seven patients with frozen shoulder syndrome followed up for two years. Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 13(5):499-502.
(5) Rangan A, Brealey SD, Keding A, Corbacho B, Northgraves M, Kottam L, et al. 2020. Management of adhesive capsulitis of the shoulder: the UK FROST three-arm RCT. The Lancet. 396(10256):977-989.
(6) Lewis J. 2015. Frozen shoulder contracture syndrome — aetiology, diagnosis and management. Manual Therapy. 20(1):2-9.
(7) Wong CK, Levine WN, Deo K, Kesting RS, Mercer EA, Schram GA, Strang BL. 2017. Natural history of frozen shoulder: fact or fiction? A systematic review. Physiotherapy. 103(1):40-47.

