烏口上腕靭帯の機能解剖

烏口上腕靭帯の機能解剖【Basic】

腱板疎部(棘上筋腱と肩甲下筋腱との間)を埋めるように存在する疎性結合組織

林典雄.運動療法のための運動器超音波機能解剖 拘縮治療との接点,文光堂,p14,2015.より引用

腱板によって覆われていない構造学的に弱点となる部分を覆ってくれているのがCHLになります。

細かく走行をみると、烏口突起の基部から上腕二頭筋腱を覆いながら大結節、小結節に向かっていることが分かります。

ですので、前額面から見るとCHLの役割としては肩関節の外旋制動を担っていることが予測できるかと思います。

長さや幅、厚さはこんな感じ⇓

CHLの長さ:52.23±1.02mm
靭帯中央部の幅:15.95±0.59mm
靭帯中央部の厚さ:1.46±0.06mm

Sun C et al. Anatomical structure of the coracohumeral ligament and its effect on shoulder joint stability. Folia Morphol (Warsz). 2017;76(4):720-729.

※触診やエコーでのイメージにお役立て下さい

このあたりはBasicということで教科書的な基礎知識となります。

烏口上腕靭帯の機能解剖【Advance】

こちらが関節窩側から見た図になりますが、矢印の位置(腱板疎部)にCHLが存在しています。

しかし、実際はもう少し複雑な構造をしているようです⇓

このような形でCHLは腱板疎部の表層を覆っているだけではなく、棘上筋や棘下筋、肩甲下筋を覆いながら走行をしていることが分かります。

その裏付けとしてこういった報告もあります⇓

CHLは腱板を表層、深層から包んで、安定させる働きを担っているということですね。

では、Advanceということで、さらにCHLの役割について深ぼっていきます。Basicでは肩関節の外旋制動を担っているとお伝えしましたが、実際はそれだけではありません⇓

この報告では、肩関節の外旋以外にも内転、下降運動(下制)、中間位からの屈曲30°・伸展30°までも制動していると書かれています。上述したように腱板を覆っているということを考えると、これだけ各方向への制動機能があることも頷けるかと思います。

ちなみに中間位からの屈曲30°・伸展30°までの制動に関するイメージはこちら⇓

屈曲時に棘上筋腱が後方へ移動する際にCHLがブレーキをかけ、伸展時の肩甲下筋腱が前下方へ移動する際にもCHLブレーキをかけているようなイメージです。

裏を返せば、CHLと周囲組織との癒着や伸張性低下があった場合、この棘上筋腱や肩甲下筋腱の移動に強くブレーキをかけている状態になるため、結果的に屈曲や伸展の制限因子にもなりうることが考えられます。

烏口上腕靭帯の機能解剖【Master】

ここまでの話でCHLは腱板疎部をただただ覆っている組織ではなく、腱板を包み込んでいる組織だということがお分かり頂けたかと思います。

しかし、まだまだこれだけでは終わりません。

実はこのように個体差はあるものの小胸筋がCHLに付着している例もあるようです。ということは合わせて前胸部のタイトネスも確認しておいたほうがよいかもしれません。

またCHLの役割についても外旋、内転、下降運動(下制)、中間位からの屈曲30°・伸展30°制動以外に"内旋"にも関わっている可能性があります。

このように結局のところほとんど全方向でCHLが絡んでくるため、肩関節の可動域制限を有する場合は、CHLと周囲組織との癒着やそのものの伸張性の低下を疑う必要があると考えています。

このあたりはMasterということで広く知られていないことかもしれませんが、辻褄の合わない事象が起こっている場合に、これらを知っておくと一つの引き出しとして活躍するかと思います。

なぜ烏口上腕靭帯を取り上げたのか?

一言でいうと「凍結肩の主要因になっている可能性がある」からです。

そもそも凍結肩の発生要因については一定のコンセンサスは得られていないと思いますが、その中でもこのような報告があります⇓

手のDupuytren's拘縮と同じような形ですね。その結果、CHLや関節包が肥厚・線維化することによって拘縮に陥る可能性があります。

つまり凍結肩はCHLが起因となっている可能性があるため、自ずと介入のポイントもCHLがメインになってくるかと思います。

ただここで少し引っかかるのが、CHLは靭帯なのに伸びるかどうかというところです。基本的に靭帯は密性結合組織とされており、硬くて伸びない印象にあるかと思います。

しかし、一度Basicの部分を見返してほしいのですが、CHLは疎性結合組織なのです。実際にこのような報告があります⇓

私も一時期は様々な書籍や臨床で飛び交う「CHLに対するストレッチ」という表現に違和感を覚えたこともありますが、こう考えるとなんらおかしくない表現でした。と同時に、CHLは多くの肩関節の可動域制限に関与しているますので、きちんと原因を精査できれば、制限を徒手的に改善できる可能性が広がったと考えることができます。