側臥位での股関節外転運動の位置づけ
こちらは各エクササイズによってどれだけ中殿筋の収縮が得られるのかを明らかにしたものです(%MVIC=最大随意収縮との比較)。
この中で、臨床場面で汎用性高く用いられている側臥位での股関節外転運動は上から5番目に位置しています(56%MVIC)。OKCのエクササイズですが、CKCのエクササイズに引けを取らないぐらい十分な収縮が得られています。
こちらの表と照らし合わせると、側臥位での股関節外転運動(56%MVIC)というのは、負荷だけの話をすると、おおよそ筋力増強効果が見込める負荷だということが分かります。
難易度の割に高い効果が見込めるということから、臨床で重宝する理由が窺えます。
一般的な実施方法
方法は至ってシンプルですが、代償動作が出現しないように実施するのは意外と難しいです。
注意すべき代償動作
①股関節が屈曲してしまう
股関節が屈曲してしまうと、中殿筋(前部線維)のみならず大腿筋膜張筋によって外転運動を遂行することが可能となってしまいます。ですので、股関節は屈伸中間位〜伸展位で行うことが望ましいです。中殿筋の弱化により修正が困難な場合は背中を壁に沿わせ、踵を壁に滑らせながら外転すると良いかと思います。
②骨盤が後方回旋してしまう
骨盤が後方回旋してしまうと、股関節を体幹と同じラインで持ち上げようとしてしまうため、結果的に股関節の屈曲につながってしまう可能性があります。中殿筋や体幹筋の弱化によって修正が困難な場合は、上述したように壁に沿わせて行うと良いでしょう。
③腰椎が側屈(骨盤が挙上)してしまう
腰椎が側屈してしまうということは、股関節外転運動ではなく、骨盤の挙上運動になっている可能性があります。軸が股関節ではなく、骨盤に寄っているということです。これでは腰方形筋のエクササイズになってしまいます。中殿筋の弱化により修正が困難な場合は、一方の手で骨盤を下制方向に押し下げた状態で実施することが望ましいです。
股関節の回旋設定
股関節の回旋に関しては、目的に応じて使い分けると良いかと思います。
そもそも中殿筋は解剖学的には前部線維と後部線維に分けられ、前部線維は内旋、後部線維は外旋作用を有しています。
つまり前部線維を強化したい場合は内旋位での外転運動、後部線維を強化したい場合は外旋位での外転運動を行えば良いです。
歩行を例にとって考えてみます。基本的に初期接地時には大腿骨は内旋していますが、荷重応答期を経て、立脚中期では外旋位となります。
つまり、初期接地〜荷重応答期に骨盤水平保持が困難な場合は、大腿骨の内旋に対して遠心的に働いている後部線維が弱化している可能性が考えられます。一方で、荷重応答期〜立脚中期で骨盤水平保持が困難な場合は、大腿骨の外旋に対して遠心的に働いている前部線維が弱化している可能性が考えられます。
ですので、前者の場合は股関節外旋位での外転運動、後者の場合は股関節内旋位での外転運動を行うという使い方もできるかと思います。
しかし、股関節外旋位で外転運動を行う際には 1点 知っておかなければいけないことがあります⇓
実は外旋位では、中殿筋の活動が低下してしまうようです。ですので、上述したように目的があれば外旋位で実施してもよいかと思いますが、基本的には内外旋中間位〜内旋位が望ましいかもしれません。
変形性股関節症に対する注意点
変形性股関節症の保存療法でも中殿筋の萎縮を予防するために、側臥位での外転運動を実施することは多いと思います。
その際に 1点 注意点があります⇓
股関節内転位を開始肢位としてしまうと、変形を助長してしまう可能性があります。
そのため、両大腿内側部の間に枕やクッションなどを挟むようにして、内転位からではなく極力中間位からスタートできるようにセットしたほうが負担を減らすことができます。
より中殿筋の筋活動を高める方法
①腰椎の安定性を高める
腰椎の安定性が高まれば、代償動作が入りづらくなり、中殿筋の筋活動が高まります。そのため、側臥位での股関節外転運動を実施する前にローカル筋(腹横筋や多裂筋など)を活性化させ、その後にこの運動に移ると効果がでやすいかもしれません。個人的にはドローインやブレーシングを実施前や実施中に行うように指導しています。
②視覚的フィードバックを与え、立位で行う
まず視覚的フィードバックが有効なようです。おそらく代償動作を自ら確認し、修正できるという点からこのような結果になっているのかと思います。そのため、鏡があれば鏡を見ながら実施したり、上から写真や動画を撮影し、股関節の屈曲や骨盤の後方回旋などの代償動作を確認してもらったりできれば理想です。
また側臥位よりも立位にて効果が高まります。あくまで中殿筋/腰方形筋の比率が高まるということですので、腰椎側屈代償が出てしまうようなケースにとっては有効に使えるのかなと思います。しかし、重力の影響が排除されてしまうので、%MVICは低くなるかもしれませんので、その点も考慮しながら代償を抑制する方法という程度で捉えて頂ければと思います。
その他オススメのエクササイズ
①ヒップヒッチ
非支持側骨盤の挙上、下制運動を反復します。対象は支持側の中殿筋・小殿筋です。骨盤挙上時に体幹を正中位に保つことを意識しましょう。
②等尺性収縮股関節外転(股関節外転)
非支持側股関節を外転します。等尺性収縮ですので、セラバンドはキツめに固定してあります。対象は支持側の中殿筋・小殿筋です(非支持側にも収縮は入ります)。股関節外転時に体幹を正中位に保つことを意識しましょう。
③側方ステップ
側方に台を用意し、ゆっくり上ります。本来はこれだけで良いです。しかし、せっかくであれば、腸腰筋の強化も図りたいということで、本動画では挙上側下肢が台に接地すると同時に非挙上側の股関節を引き上げています。このときにも体幹が正中位を保持できるように意識しましょう。
台ヘ上るスピード、股関節を引き上げるスピードを早めると、さらに負荷量が高まります。かなり負荷量の高い運動になるため、転倒には留意し、できる範囲で行いましょう。
④シングルレッグヒップリフト
一側下肢を伸展挙上したまま、お尻上げ(ヒップリフト)を行います。下肢伸展挙上が困難な場合は、あくまで狙いは支持側ですので、足を組むような形で反対側に乗せても良いかと思います。
⑤シングルレッグスクワット
一側下肢を台の上に乗せ、前足のみでスクワットを行います。こちらは難易度の設定のバリエーションが多く存在しています。負荷を下げる方法としては、支持物に掴まったり、スクワットの伸展層で、台上の足の伸び上がりを利用すると良いです。負荷を上げる方法としては、台の高さを上げたり、台を利用せず浮かせたままで行うと良いです。こちらもかなり負荷量の高い運動になるため、転倒には留意し、できる範囲で行いましょう。
参考書籍
・建内宏重. 股関節〜協調と分散から捉える,ヒューマンプレス,2020.
・神野哲也 et al. “整形外科疾患の運動療法-最新の進歩”, 整形・災害外科,64.4,2021.
・斉藤秀之 et al. 極める変形性股関節症の理学療法,文光堂,2013.
・永井聡 et al. 股関節理学療法マネジメント,メジカルビュー社,2018.
・工藤慎太郎. 機能解剖と運動療法,羊土社,2022.
・荒木茂. マッスルインバランス改善の為の機能的運動療法ガイドブック,運動と医学の出版社,2020.