棘上筋の運動療法

タオル内転運動

これは準備運動だと捉えて下さい。

次章で提示する(full can エクササイズ)時に、過剰な三角筋の収縮や肩甲帯の代償が入らないようにするための準備運動です(相反抑制でアウターを緩めておく)。

 

バランスボールでの外転運動

自動介助運動での外転運動が可能です。こちらも筋力強化を目的としているというよりかは、筋緊張や恐怖心の改善を見越しての準備運動だと捉えて下さい。

 

full can エクササイズ

・負荷なし


①母指を上向きにした状態(full can 肢位)+肩甲骨面上(水平内転30°)にて肩関節の外転運動を行う(肩甲骨内転位を意識)。
②外転角度は30°ぐらいまで。

なぜ肩甲骨内転位を意識するのか?(※①の補足)
筋力低下は棘上筋のみならず、肩甲骨安定性の影響を受けている可能性が高い¹⁾ため。

なぜ外転角度は30°位が望ましいのか?(※②の補足)
肩関節挙上運動において挙上0〜30°は相対的に棘上筋の筋活動が高く、挙上30°以上は三角筋の筋活動が高い²⁾ため。

 

・負荷あり

☑抗重力にて

方法は「負荷なし」同様。
そのまま側臥位にて実施することで抗重力位で実施が可能です。

 

☑重錘を付加して

方法は「負荷なし」同様。

ゴムチューブや重錘(水の入った 500ml のペットボトルが簡易的)を把持して行う。また介入中であれば、徒手的に上腕近位部へ抵抗をかける。抵抗のかけすぎにより、代償動作が出ないように注意。

なぜ上腕遠位部ではなく、近位部への抵抗なのか?
近位部に抵抗をかけることで、上腕骨頭の上方変位を抑制できるため。

よく見受けられる代償動作とは?
上腕骨頭の上方変位、反対側への体幹の側屈が出現しやすい。

個人的には負荷なし → 抗重力 → 重錘 → 遠心性収縮(ゆっくり下ろす) の順番で行うようにしています。特に腱板断裂術後などでは、より慎重に負荷量を設定しましょう。

肩すくめ運動

①肩をすくめる
②30°まで肩関節を屈曲する

注意点として、肩をすくめるという動作は、肩甲骨が上方回旋し、相対的に肩甲上腕関節は内転位となります。要は、棘上筋が伸張された状態になります。そのため、肩関節周囲炎や腱板断裂(術後は特に)痛みや腱の修復度に応じて実施するようにしましょう。

なぜ肩すくめが有効なのか?
このように肩すくめなし群に比べて、肩すくめあり群では有意に筋活動が増加している。また肩すくめ群に関しては、肩関節屈曲30°で最も筋活動が高くなっているため、30°までの屈曲動作を実施すると良い。

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四つ這いでの肩関節運動

①四つ這い位にて、肩関節90°屈曲位とする。
②肩甲骨を外転位に保持しつつ、身体をあらゆる方向へ動かす。

こちらの目的は棘上筋のみならず、全ての腱板がターゲットになります。また筋力強化というよりは、関節位置覚の改善を目的としています。

なぜ肩甲骨外転位で行うのか?
前鋸筋を収縮させ、肩甲骨の固定性を作り出すため。

なぜ固有受容器への必要なのか?
腱板が断裂すると、関節位置覚が低下している可能性が高いため。

余裕が出てきたら、支持を片方にします。こちらも両上肢支持 → 片側上肢支持にて段階的に実施しましょう。

引用文献

1)Poppen NK et al. Forces at the glenohumeral joint in abduction. Clin Orthop Relat Res. 1978 Sep;(135):165-70.
2)Kibler WB et al. Evaluation of apparent and absolute supraspinatus strength in patients with shoulder injury using the scapular retraction test. Am J Sports Med. 2006 Oct;34(10):1643-7.

参考書籍・論文

・工藤慎太郎.機能解剖と運動療法,羊土社,2022.
・松本秀男 et al. イラスト図解 筋力トレーニング,文光堂,2019.
・菅谷啓之 et al. 船橋整形外科方式 肩と肘のリハビリテーション,文光堂,2019.
・安積裕二 et al. 上肢挙上時の棘上筋機能に着目した治療により洗髪動作の実用性が向上した一症例.関西理学療法 20 (2020): 117-122.