棘上筋の基礎解剖
全体像と起始停止
これらの骨模型では、棘上筋以外の軟部組織が切り取られていますが、本来、筋腹は僧帽筋、停止部は三角筋に覆われています。
深層に位置する筋(腱板の 1つ)であり、その走行から骨頭を関節窩に押し付ける働きを担っています。
回旋軸の存在(前部・後部)
このように水平面から見ると、棘上筋は上腕骨回旋軸をまたぐように走行しています。そのため、上腕骨回旋軸よりも前方を走行する棘上筋(前部線維)と上腕骨回旋軸よりも後方を走行する棘上筋(後部線維)とでは、作用が異なります。
前部線維は外転に加えて内旋作用を有し、後部線維は外旋作用を有します。
そのため、後部線維に比べ、前部線維のほうが収縮力としては強いことが考えられます。
棘上筋の臨床的な機能解剖
停止部のバリエーション
棘上筋の停止部は、多くの書籍には大結節の"上面"と記載されていることが多いですが、2008年の報告にて上面の中でも"前内側"、かつ約2割は"小結節"にも付着していることが明らかになっています。複雑に入り組んだこのあたりの組織を触り分けるには必ず知っておきたい解剖です。
フォースカップル
肩関節挙上運動における主動作筋は三角筋です。しかし、三角筋だけが働くと、円滑的な挙上は行われず、骨頭は上方に変位してしまいます ¹⁾。
そのため、この骨頭の上方変位を抑制するために、棘上筋は三角筋に先行して活動しており、フォースカップルを形成することで円滑的な挙上運動を可能にしています ²⁾。これが俗にいう。"骨頭を求心位に保つ"ということです。
侵害受容器の存在
端的に言うと、棘上筋は痛みを感じやすい組織だということです。また肩峰下滑液包 ³⁾を始めとして、他にも痛みを感じやすい組織は多く存在するため、より愛護的に介入しなければいけないのが肩関節です。個人的にも、幾度となく第2肩関節での痛みには難渋してきました。
先天的な問題か、繰り返す炎症によるものかは分かりませんが、こういった理由からインピンジメントを引き起こしてしまっている場合もあるため、知っておいて損はないと思います。
効率的な外転肢位
先程、停止部のバリエーションの章にて、棘上筋は大結節の前内側、小結節に付着するということを上述しました。こう考えると、このイメージ図よりも走行が異なってきます。少し前方に捻れるように付着することになります。
では、この状態から上腕骨が内旋すると、どうでしょう?
さらに前方への捻れが強調されてしまうことがイメージできるかと思います。
一方で、上腕骨が外旋すると、どうでしょう?
前方への捻れが解け、棘上筋の走行が一直線上になることがイメージできるかと思います。
つまり、外転効率だけを重要視すると、肩関節外旋位での外転運動が良いことが考えられます。個人的にはこれを考えるようになってから棘上筋のテストとして肩関節が内旋位となってしまう empty can test ではなく、full can test を用いることが多くなりました。