多裂筋の徒手・運動療法

多裂筋の触診

多裂筋は深層の筋であり、直接触れることはできません。ただ広背筋や脊柱起立筋を介してでも、どの位置であれば、多裂筋に近づけるかを知っておくと徒手療法を行う上では便利です。

❑ 多裂筋と半棘筋・回旋筋の区別
❑ 多裂筋と脊柱起立筋の区別

この2つのポイントを押さえておく必要があります。

まず多裂筋と半棘筋・回旋筋の区別についてですが、基本的に半棘筋は胸椎レベル以上、回旋筋は胸椎レベルに限局して付着しており、腰椎部には付着していません。ですので、腰椎部に存在する横突棘筋群は多裂筋のみです。むしろ多裂筋は腰椎部で最も発達しています。そのため、より多裂筋に近づけるのは腰椎部ということになります。

続いて問題となってくるのが、多裂筋と脊柱起立筋の区別です。ここを区別するには、腰椎のどのレベルでそれぞれがどういう形態をしているのかを知る必要があります⇓

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このようになっていることが多いようです。こう考えると、第1〜2腰椎レベルよりも第3腰椎以下のほうが多裂筋に近づけることが分かります。実際に多裂筋に表面筋電図を貼付する際は、第4腰椎棘突起の側方3cmが提唱されています¹⁾。こういった背景のもとで設定されているのかもしれません。

まとめると、多裂筋を触診する場合は、第3腰椎以下で行うことが望ましいです

多裂筋を強化することの意義

 多裂筋の量的・質的変化を知る

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こちらの図を見る限りでは、多裂筋は加齢に伴って筋厚は減少せず、筋硬度が上昇していることが分かります。そのため健常者であれば、多裂筋の機能改善を目指すには、量的変化ではなく、質的変化に注目する必要があります。

 腰痛患者の多裂筋

慢性腰痛症患者において健常者と比較して多裂筋が著明に萎縮している。

Wallwork TL et al. The effect of chronic low back pain on size and contraction of the lumbar multifidus muscle. Man Ther. 2009 Oct;14(5):496-500.

片側性の腰痛患者では、患側の多裂筋の横断面積が有意に低下している。

Hides J et al. Multifidus size and symmetry among chronic LBP and healthy asymptomatic subjects. Man Ther. 2008 Feb;13(1):43-9.

このような報告があります。加齢によって多裂筋は量的変化を起こさないことを上述しましたが、腰痛があると量的変化を起こす可能性があります。そう考えると、腰痛患者の多裂筋の機能改善を目指すには、量的変化にも注目する必要があります。

 多裂筋のフィードフォワード作用

多裂筋は腹筋群のローカル筋(腹横筋、腹斜筋群)と同様に、身体への外的もしくは内的な動揺に先行して筋活動を起こす。

Moseley GL et al. Deep and superficial fibers of the lumbar multifidus muscle are differentially active during voluntary arm movements. Spine (Phila Pa 1976). 2002 Jan 15;27(2):E29-36.

腰痛などの痛みによってローカル筋のフィードフォワード作用は低下するとされています。このフィードフォワード作用が破綻した状態での腰椎運動は、腰椎への過剰な負担を招きます。そのため、まずは除痛に努め、その後フィードフォワード作用を改善するような介入へと移行していく必要があります。

神経筋反応時間の改善にはその筋の選択的収縮が有効である。
Urquhart DM et al. Differential activity of regions of transversus abdominis during trunk rotation. Eur Spine J. 2005 May;14(4):393-400.

そしてこの報告より、いかに多裂筋の選択的収縮を促せるかが重要になってくると考えています。

では、どのように?という部分をここからお伝えしていきます⇓

多裂筋の徒手療法

股関節中間位(〜20°屈曲位)、45°屈曲位、90°屈曲位で脊柱の長軸上に引っ張ります。股関節屈曲角度を変えることで、各レベルの椎間関節を長軸上に位置させています。

股関節中間位(〜20°屈曲位) → L1/2、L2/3 の椎間関節狙い
股関節45°屈曲位 → L3/4 の椎間関節狙い
股関節90°屈曲位 → L4/5、L5/S の椎間関節狙い

多裂筋の運動療法

収縮誘導

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腰椎棘突起部を母指と示指で挟みます。そのまま介入者は軽く押圧し、対象者はそれを押し返し、その状態を保持します。各レベルで順番に行うと良いかと思います。

バードドッグ

四つ這いから対側の上下肢を挙上します。常にお腹を薄くするイメージで、過度な腰椎前弯が出現しないように注意しましょう。

下肢挙上側の多裂筋の筋活動が高まる。

Okubo Y et al. Electromyographic analysis of transversus abdominis and lumbar multifidus using wire electrodes during lumbar stabilization exercises. J Orthop Sports Phys Ther. 2010 Nov;40(11):743-50.

右上肢、左下肢挙上時には左多裂筋の活動が高まるということになります。

ストレッチポールなどを目線の下に置いて行うと、身体の正中位保持が行いやすくなります。

挙上した上下肢を外転位にすることで、多裂筋の筋活動量のみが有意に増加し、多裂筋/脊柱起立筋比も増加する傾向にあった。

正木光裕 et al. 多裂筋選択的トレーニングの筋電図学的分析─ 四つ這い位での上下肢挙上における肢位の変化と重錘負荷による影響─. 理学療法学 Supplement Vol. 39 Suppl. No. 2 (第 47 回日本理学療法学術大会 抄録集). 公益社団法人 日本理学療法士協会, 2012.

一般的なバードドッグでは負荷量が物足りないという方には、こちらのバリーションを指導すると良いかと思います。

多裂筋エクササイズ①


骨盤を前傾しながら両上肢を挙上し、背筋を伸ばします。指先を上から吊るされているようなイメージで行うと、脊柱が軸伸張(エロンゲーション)され、よりローカル筋が働きやすくなります。

 

両上肢挙上を90°に留め、前方リーチを行います。ゴムチューブにて抵抗をかけることで負荷量を上げることができます。

多裂筋エクササイズ②

両上肢を外転90°とし、大きく素早く前後に振りながら外転角度を増加させていきます。常にドローインあるいはブレーシングを同時に行い、過度な腰椎の運動が生じないように注意しましょう。

引用論文・参考書籍

<引用論文>
1)Vink P. Specificity of surface-EMG on the intrinsic lumbar back muscles. Human movement science 8.1 (1989): 67-78.
<参考書籍>
・松本秀男 et al . イラスト図解 筋力トレーニング,文光堂,2019.
・市橋則明.運動療法学 第2版,文光堂,2014.
・鈴木俊明. 体幹と骨盤の評価と運動療法 改訂版 ,運動と医学の出版社, 2021.
・赤羽根良和. 腰椎の機能障害と運動療法ガイドブック, 運動と医学の出版社, 2017.
・赤坂清和 竹林庸雄(監修) 三木貴弘(編集).非特異的腰痛のリハビリテーション,羊土社,2018.
・工藤慎太郎.機能解剖と運動療法,羊土社,2022.