膝蓋上嚢の基礎解剖
膝蓋上嚢は膝蓋骨の上方に位置する滑液包です。
これだけの大きさを有しており、関節水腫もこの中に貯留します。膝蓋跳動はこの膝蓋上嚢部の水腫を遠位方向へ移動するような操作を行うテストになります。
矢状面からみると、大腿四頭筋腱の深層に位置しており、大腿骨上を大腿四頭筋腱が滑らかに動くことができるのは、この膝蓋上嚢のおかげです。しかし裏を返すと、膝蓋上嚢の周囲組織との癒着は大腿四頭筋腱や膝蓋骨の動きを阻害してしまうため、関節可動域の制限因子になりやすい組織の一つです。
大腿四頭筋腱の深層というのをより厳密に言うと、中間広筋の深部であり、そこに位置する膝関節筋や外側広筋の深層が膝蓋上嚢へとつながっています。
ですので、パテラセッティングによって膝関節筋や外側広筋に収縮が加わると、同時に膝蓋上嚢も牽引されることとなります。
膝蓋上嚢の動態
動態としては膝関節伸展時は二層構造になっており、屈曲時には一層構造に変化するということが多くの書籍で述べられています。キャタピラーのように動いており、肩峰下滑液包と同じような動きとなっています。
実際のイメージはこんな感じ⇓
周囲組織と癒着してしまうと、この動きが阻害されるというわけです。
またより細かく見ると、こんな感じ⇓
このように膝蓋上嚢の二層構造 ➛ 一層構造というのは膝蓋上嚢の深層が動いて起きていることになります。
さらにこういった報告もあります⇓
膝蓋上嚢は痛みを拾う組織ですので、もしかすると、周囲組織との癒着により過剰な牽引が加わったり、過度な水腫により内圧が高まってしまうと、痛みとして表出されるかもしれません。
一度癒着してしまうと、理学療法による改善は難しく、関節授動術などの外科的治療の対象となってしまう可能性もありますので、そういった意味で予防としてパテラセッティングを用いるのは有用だと考えています。
参考書籍
・北村清一郎,馬場麻人(監修) 工藤慎太郎(編集). 運動療法 その前に!運動器の臨床解剖アトラス,医学書院,2021.
・青木隆明(監修) 林典雄(執筆) . 改定第2版 運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹,メジカルビュー社,2012.
・島田洋一(編集) et al. 第3版 整形外科 術後理学療法プログラム,メジカルビュー社,2020.
・整形外科リハビリテーション学会(編集) 林典雄(編集委員) et al . 改定第2版 整形外科運動療法ナビゲーション 下肢,メジカルビュー社,2014.
・林典雄.運動療法のための運動器超音波機能解剖 拘縮治療との接点,文光堂,2015.
・園部俊晴. 園部俊晴の臨床 膝関節,運動と医学の出版社,2021.
・林典雄(監修) 橋本貴幸(執筆) 園部俊晴(編集).膝関節拘縮の評価と運動療法,運動と医学の出版社,2020.