後脛骨筋の機能解剖

後脛骨筋の全体像を掴む

後脛骨筋は下腿後面から起始し、足底の様々な骨へ幅広く停止します。そんな後脛骨筋ですが、多くの特徴がありますので、個人的に臨床で重要視している部分をいくつかピックアップしてみます。

後脛骨筋の各運動方向への貢献度

筋の作用は少しでもその動きに関与していれば、その筋の作用だと認められ、記載されています。ただし、その動きに対する貢献度を我々は知っておく必要があります。後脛骨筋の主となる作用は足部の内がえしですが、上述したように足関節底屈や足部内転作用も有しています。

これらの報告から後脛骨筋の足関節底屈作用は微々たるもので、足部内転作用は強いことが分かります。このように作用を考える時には、運動方向のみならずその貢献度(低・高)も押さえておくと良いかと思います。

長趾屈筋と長母趾屈筋との関わり

後脛骨筋は長趾屈筋と長母趾屈筋の深層に位置しています。また下腿遠位部では長趾屈筋と交差して足底に向かっていることが分かります。こちらはMTSS(シンスプリント)と深く関連性を持っており、どのような順序で介入すればよいか?という大きなヒントになるかと思います。

ショパール関節への影響

後脛骨筋は後足部から中足部にかけてこれだけ多くの骨に付着しています。この細かな付着によって後脛骨筋がショパール関節へもたらす効果も忘れてはいけません。

このように足部の剛性が高まるのは後脛骨筋のおかげです。後足部から中足部への固定性がなければ、そこから前足部まで力の伝達効率を高めることができません。時には固定され一塊に、時にはひとつひとつが分節的に動く、ということを可能にしてくれているのが、後脛骨筋といっても過言ではないかと思います。

内果溝の走行を考える

後脛骨筋腱は内果溝を通り、足底に向かいます。内側面から見ると、内果溝通過後に、そこを滑車として急激に走行を変えていることが分かります。溝に入り込み、安定性を得ながら、足底に向かうといういかにも合理的な走行をしているのですが、実は足関節の底背屈運動により、かなりの摩擦・圧迫刺激を受けています。

背屈時に後脛骨筋腱の張力が高まることがお分かり頂けるでしょうか?

このように背屈によって後脛骨筋腱の張力が高まると、腱を内果に押し付ける圧迫力となります。また後脛骨筋が短縮を起こすと、過剰に腱が牽引され、その摩擦刺激によって腱の炎症や損傷を招く可能性があります。これが後脛骨筋腱機能不全(PTTD)へと繋がってしまう原因の1つだと考えられます。

参考書籍

・北村清一郎,馬場麻人(監修) 工藤慎太郎(編集). 運動療法 その前に!運動器の臨床解剖アトラス,医学書院,2021.
・林典雄 et al. 運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈 下肢編,運動と医学の出版社,2018.
・青木隆明(監修) 林典雄(執筆) . 改定第2版 運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹,メジカルビュー社,2012.
・工藤慎太郎. 機能解剖と触診,羊土社,2019.
・河上敬介 et al. 改訂第2版 骨格筋の形と触察法,大峰閣,2019.
・竹井仁. 触診機能解剖カラーアトラス 下, 文光堂, 2008.
・片寄正樹. 足関節理学療法マネジメント,メジカルビュー社,2018.
・赤羽根良和. 足部・足関節痛のリハビリテーション,羊土社,2020.
・市橋則明. 身体運動学,メジカルビュー社,2017.