内側広筋の機能解剖

内側広筋の基礎知識

このように内側広筋は近位部を内側広筋長頭、遠位部を内側広筋斜頭と区分されています。

この近位部と遠位部の大きな違いは筋線維の角度です。実は遠位になるほど線維角は鈍角化していきます。

もっと噛み砕くと、内側広筋斜頭は膝蓋骨に対して縦というよりは横から付着しているようなイメージです。

この線維角の違いにはきちんと意味がありまして、内側広筋斜頭は膝伸展角度が変化しても筋線維束長さほど変化しないため、最終伸展域で働きやすい筋だと考えられます。

ですので、変形性膝関節症(以下 膝OA)では、内側広筋斜頭を狙った介入を展開することが多いかと思います。

どういう場面で治療対象となるのか?

膝蓋骨の外方変位を制御

内側広筋はその走行からも分かるように膝蓋骨を内方へ牽引しています。

そのため何らかの理由で収縮不全が起こると、膝蓋骨は外方へ変位され、膝蓋大腿関節障害を引き起こす可能性があります。

またあまり知られていないかもしれませんが、脛骨の外側変位や外旋の制御にも一役買っています。

膝OAでは脛骨の外方変位や外旋位となっているケースが多く、それらの改善、進行予防といった観点からも内側広筋の強化は重要だと考えています。

反射性筋萎縮の影響

膝OAでは関節軟骨の破壊に起因して滑膜炎が生じ、その流れで関節水腫が貯留しやすいです。

反射性筋萎縮とはこういったものです。

これは痛みに起因することが多く、内側広筋では著明に萎縮が生じるとされています。

そのため、まずは関節水腫を抑制し(穿刺や免荷によって)、その後はすみやかに内側広筋の強化に移る必要があると考えています。

初期接地(IC)〜荷重応答期(LR)での衝撃緩衝作用

歩行周期のなかでこのフェーズでは、膝関節の屈曲(double knee actionの1つ)が生じます。

この外部膝関節屈曲モーメントに対して、大腿四頭筋は遠心性収縮が求められています。

その遠心性収縮がきちんと入ることで LR の衝撃緩衝作用が働くわけです。

では、なぜ内側広筋との関わりが大きいのでしょうか?

わざわざ内側広筋でなくて、他の大腿直筋や広筋群でも良いのでは?という疑問が浮かぶかと思います。

ただし、内側広筋を強化しなければいけない理由としてこのようなことが書かれています⇓

このフェーズで最も働いているのが内側広筋だからこそ、内側広筋の筋力強化が重要なのです。

さらにここに追い打ちをかけるようにこのような報告もあります⇓

なおさら IC〜LR での遠心性収縮を再獲得する必要性が伺えます。

人工膝関節全置換術(TKA)での切開

人工膝関節全置換術(以下 TKA)では内側広筋に直接侵襲が及ぶことがあります。

そのためTKAでこれらの術式が選択された場合は、付随して一定期間筋力低下が起こるため、術後は炎症の程度を確認しながらすみやかに内側広筋の筋力強化に移らなければいけません。

ただここでは内側広筋の"筋力強化"というイメージよりも回復を阻害しない程度の"滑走性維持"を目的とした筋の収縮・弛緩が重要だと考えています。

術後一定期間不動となり、内側広筋の収縮がなされなかった場合、直接切開された内側広筋とその下に位置する滑液包との間の滑走性が損なわれます。

これが結果的に摩擦を生じさせ、疼痛を惹起するという流れも大いに考えられますので、これを未然に防ぐという意味で早期からの内側広筋の促通は必要だと思います。

伏在神経膝蓋下枝の分布

※このイラストで下腿へ伸びている枝は伏在神経内側下腿皮枝。
本来はもう少し近位部の脛骨粗面付近へ分枝する伏在神経膝蓋下枝が存在する。

この広筋内転筋板はその構成通り、内側広筋の過緊張状態が続くと、広筋内転筋板にもその影響が及び、結果的に同部位で伏在神経を絞扼してしまうことがあります。

実際にTKA後ではこの状態を免れることは難しく、多くのケースで術後に膝蓋下枝の支配領域(皮膚)である膝前内側部の違和感を訴えることを経験します。

そのため、こちらも内側広筋の筋力強化ではなく、緊張を取り除くための収縮・弛緩が必要になると考えています。

ちなみに伏在神経絞扼はこの広筋内転筋板での絞扼のみならず、縫工筋が関与していることも多いため、その部分の精査は怠らないように留意して頂けるとよいかと思います。