返信先: バッティング時の肘内側部痛を呈した症例について

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#5833
池田拓未
キーマスター

回答させて頂きます。

こういったケースは私自身も経験があります。しかし、バッティングと野球肘の関係性はまだ明らかになっていない部分が多く、現状の私の考えを共有できればと思います。



なぜバッティングで肘内側部が痛むのか?
▷はじめに肘内側部へ骨傷があっても7割以上が肘痛を自覚していないという報告があります¹⁾。そのため、残りの3割程度しか自覚していないので、臨床的には母数も少ない印象です。

なぜ痛むのか?という点については、バッティングでは上にある腕の肘関節の伸展および前腕の回外において大きな角度変化がみられた²⁾とされています。この回外の増加によって外反ストレスが増強していることが痛みに関連していると考えています。



痛みの出現タイミングから推察する
▷個人的にどのタイミングで痛みが出ているのかが、病巣を捉える上で重要だと考えています。勿論、打点や相手の球種によっても若干の違いは出てきますが、”流す”タイミングなのか”ひっぱる”タイミングなのかが明らかになると的が絞れやすいです。流すときは肘関節の屈曲角度が小さくなり、ひっぱるときは大きくなる傾向にあります。ということはその際のUCLへの緊張具合も変化します。

<屈曲角度とUCLの状態>
120°→前斜走線維の前方部:弛緩 後斜走線維束:緊張++
90°→前斜走線維の前方部:緊張+ 後斜走線維束:緊張+
60°→前斜走線維の前方部:緊張+ 後斜走線維束:緊張±
30°→前斜走線維の前方部:緊張++ 後斜走線維束:弛緩

つまり、流すときは30〜60°付近となることが多いため、前斜走線維の損傷?、引っ張るときは後斜走線維?という予測を立てています。もしもここの再現性がとれれば、その角度での外反ストレスに弱いという仮説は立つかと思います(明確に再現性が出る人は少ないですが、あくまで1つの引き出しとなれば…)。



やるべきことは結局外反の抵抗性を高めること
▷リハ内容としてはやはりここが重要かなと。個人的に重要視しているのは、”尺側手根屈筋”と”浅指屈筋”です。
というのも、肘を外反させたときの外反角度と筋活動を測定した研究によると、尺側手根屈筋と浅指屈筋を合わせた筋活動と、尺側手根屈筋単独の筋活動で外反角度が減少したが、円回内筋の活動による減少は最小であった³⁾とされているためです。また尺側手根屈筋は肘屈曲30、90、120°、浅指屈筋は屈曲30、90°でUCLと走行が一致する⁴⁾とも言われています。ですので、流す時の痛みが強い場合は浅指屈筋、引っ張る時の痛みが強い場合は尺側手根屈筋を狙いとしています。

ただ前斜走線維束を肉眼で見ると、はっきりとした靭帯構造ではなく、周囲筋膜と内側側副靱帯および関節包が密接に連結しており、これらが肘内側側副靱帯複合体と呼ばれるような構造をなし、回内屈筋群とこれらの深層筋膜、および関節包の全体で肘内側の支持性を担っている⁵⁾との報告もあります。ですので、細かく狙うことは大切ではあるのですが、結局は全て重要だということにもなります。

個人的にはこういった考えで介入を継続していました。また野球肘ではバッティングの制限を設けることは少ないですが、個人的には痛みが強い場合は、Drを相談し、制限をかけていました。まだまだエビデンスに乏しい部分ではありますが、少しでも参考になっていれば幸いです。



1)弥富雅信 et al. 投球障害肘を呈した成長期野球選手の打撃時の痛みの検討. 日本肘関節学会雑誌 25.2 (2018): 228-230.
2)松浦哲也. 内側上顆障害の保存的対応 ― 形態と機能的修復 ― 肘実践講座 よくわかる野球肘 肘の内側部障害-病態と対応-. 全日本病院出版会, 東京, 2016; 164-70.
3)Park MC et al. Dynamiccontributions of the flexor-pronatormass to elbow valgusstability. J Bone Joint Surg Am.2004 Oct;86(10):2268-74.
4)Davidson PA et al. Functionalanatomy of the flexor pronatormuscle group in relation to themedial collateral ligament of theelbow. Am J Sports Med. 1995Mar-Apr;23(2):245-50.
5)Hoshika S et al. Medial elbowanatomy: A paradigm shift forUCL injury prevention andmanagement. Clin Anat. 2019Apr;32(3):379-389.